弊社のある岡山県備前市には、岡山県の公的研究機関である「岡山セラミックスセンター」があります。場所は、かつては柵原鉱山から下ってきた片上鉄道の終着駅だった片上港です。
同センターは、特殊な測定機器を使った分析の受託をやったり、講習会などを開いたりするなど、地元セラミックス業界の知識や技術が集約された場所ともいえるところです。
普段は、地元の耐火煉瓦会社や粉砕会社、その他専門の人たちが利用する施設で、一般の人には縁遠い場所ではあるのですが、この度、センターの広いロビーを使って、耐火物に関する展示コーナーを新設しました。
展示コーナーには、大型のパネル展示だけでなく、耐火物に使用する原料や実際の耐火物製品なども展示されています。なかなかマニアックな内容ですが、一般の人でも自由に見学が可能です。
先月6日の山陽新聞(東備版)にも紹介されました。
弊社の土橋蝋石(パイロフィライト)や珪石(シリカ)も展示されています。
パイロフィライトは、備前の耐火煉瓦の主原料として、明治時代から使われてきました。残念ながら、今では韓国のパイロフィライトが主に使われています。弊社のパイロフィライトは、主に蝋石クレーや釉薬、坩堝などに使われていて、耐火煉瓦にはほとんど使われていません。
一方、シリカは地元の耐火物メーカーで連続鋳造パウダーの原料として利用されています。耐火物としては、弊社の場合、今はこちらがメインですね。SiO2が99%と比較的高い純度があり、粉砕も比較的しやすいことから、近年出荷量が増えています。鉱量も豊富で、今後もどんどん採掘していく予定です。
耐火物にはさまざま原料が使われています。その多くが海外産ですが、意外と国内鉱山からも供給されています。日本には、弊社のような小さな鉱山が細々ながら、今でもしっかりと耐火物の原料を採掘していて、それらが備前の地に届いて、さまざまな耐火物になっています。
耐火物の最も主要な供給先は製鉄所です。製鉄の工程では実にさまざまな耐火物が利用されています。もちろん、製鉄だけでなく、熱を使ってものを作る、ありとあらゆる場面において、耐火物は重要な役割を果たしています。熱を使うのは金属だけでなく、プラスチックでも紙でも、製造や加工で熱を使いますよね。
もっといえば最終的にゴミとなって燃やす際にも、焼却炉の中で耐火物が使われています。あらゆる場面で耐火物の存在が見え隠れしているのです。
実際に備前で作られている耐火物の展示です。これらを見る限り、どこの何につかうものだかまるでわかりませんが、工場施設や自動車の内部、その他、どこかの見えない場所で使われているわけです。すごいですよね。
展示コーナーでは、備前の地がどうして耐火物のメッカとなったのか、その130年の歴史を知ることができるパネルも展示してあります。明治初期の石筆づくりから始まった耐火煉瓦の歴史を知ることができます。
展示コーナーでは「備前のまちと耐火れんが」という小冊子が無料で配布されています。これはぜひとも手にとってご覧いただきたい1冊です。
山陽新聞(東備版)の連載記事をそのまま製本したものですが、2022年1月から半年にわたって、備前と耐火煉瓦の歴史(第1部 変遷)や生き残り戦略(第2部 サバイバル)、新たな挑戦(第3部 新領域)について、詳細な取材をもとに執筆されたもので、素人でも読みやすい文章でありながら、備前の耐火物業界が詳しくわかるようになっています。山陽新聞の新居田崇記者による力作で、連載当時から私は大注目していました。
6月末で連載は終わってしまったのですが、私としては「備前市がこの記事を買い取って冊子を作るべきだ、やらないなら俺がやる!」とまで思っていたところ、岡山セラミックスセンターさんが、ちゃんと許諾をとって冊子を作ってくれました。大変感謝です。
これから備前市で働きたいと思う人がいるなら、ぜひともこの冊子を読んでいただきたいです。私たちが携わる耐火物という産業はとても地味な存在ですが、確実に社会の中で必要なものであり、そうした社会の礎になるような仕事に黙々と取り組んでいるのが、備前市で働く人たちの姿です。
そんなわけで、備前市にお立ち寄りの際、耐火物のことを手軽に知ることができる施設として、岡山セラミックスセンターをぜひともご利用ください。